chapter3: 引越しの宴 -後篇-
「友雅様が二人いらっしゃるーー」
「ははは、気にしない気にしない」
「先日、市で手に入れた西瓜です。なんでも西の『阿弗利加』という国から渡ってきたものだとか」
「西瓜が日本に伝わったのは江戸時代だよ」
「平安の時代にいた私達は、本来なら口にすることなど出来ないものですね」
「…恐れながら、我々八葉がいた『平安』は、この世界の平安とは違う、『平安のような異世界』とのこと」
「零していますよ、頼久」
「はっ、これは失礼いた……」
「あ…いえ、小さい方の頼久です」
「ここは様々な時代が交差しているのか…。橘少将様も私がいる時代よりも数年後の少将様なのですね」
「そうだよ。その頃の私は、君とそんなに歳が変わらないはずだよ。それに、まだ『少将』ではなかったんじゃないかな。」
「では…、そちらは本当に……数十年後の頼久なのか…」
「兄上……」
西瓜を食べながら語るみんな。
西瓜を食べたあとはおトイレが近くなるのはお約束です。
みんな厠に向かいます。
込み合う狭い厠内。
頼ちゃんは大人頼久の前で逆立ちを披露。
「見てください〜〜」
「……子供じみた真似はよせ。」
「…まだ……子供です……。」
怒られてしまいました。
しゅん、と肩を落とす頼ちゃん。
「頼久…、そんな風に子供に接するのは本来の貴方らしくありませんよ」
「……このような軽はずみな言動や行動が後に………、いえ…、何でもありません…」
「???」
「頼久…本当に大きくなったのだな……。私よりもずっと逞しい」
「兄上……」
「お前が二十五なら、私はもうとっくに嫁をもらっている頃だろうな。どんな娘だ?もう子もいてもおかしくないな。どんな子だ?男か?女か?私に似ているか?」
「……………」
「ああ!すまない、矢継ぎ早に。 そうだな、先を知ってしまったら面白くないからな。いい、黙っていてくれ」
「申し訳ございません!兄上…ッ!!」
「どうした頼久?そんな涙目になって?体は大きくなっても泣き虫なところは変わってないのだな!」
明るく笑う兄上の笑顔が痛い頼久でした。
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宴会はまだまだ続いています。
二日目に突入です。みんな寝てません。
お客さんは寝なくてもよい仕様らしいけど、
招く側の面々はドーピングしないと体が持ちません。
ちび頼がめずらしく率先してトイレ掃除をしている…!
「ほほう、感心だねぇ〜」
宴が盛り上がり、すでに出来上がった友サマは、サービスなのか脱ぎだしてます。
「堪らなく臭いのです〜っ!」
大人数が次々に使う厠。
中には流さない人もいるのか、辛抱溜まらず掃除に至ったらしい。
厩舎にて。
「風船は好きですか?」
「馬の方が好きだな」
「わぁぁあ!!」
夜風に当たろうと裏口から外に出ると、とつぜん見知らぬ人に驚かされました。
「な、何奴!?」
変質者だ…!
「不審者だな!?すぐに立ち去れ!さもなくば斬る!」
謎の人 :「帰ればいいんだろ、帰れば」
と、かえって行きました。
そのとき、干している褌が一枚なくなっていることに
頼ちゃんは気がついていませんでした。
まだいやがった…。
大人頼久と手を取り合ってダンシング。
謎の人 :「お兄さん、とても素敵な褌だね…。そそるよ…すごく………(´Д`;)ハアハア」
「そ、そうか…?」
謎の人 :「ああ…、その大切に秘法を守るかのように覆う一枚の布切れ…最期の城壁…。思わずめくりたい衝動を止められないよ……。ベルリンの壁崩壊万歳」
「めくっても何も無いが…」
変質者なので、撃退。
ほぼ全裸に近い人々の中で踊るちび頼。
「大人って…………すごいね」
「私も大きくなったらあのようになるのかな…」
むさくるしさゆえに、この室内の気温はにわかに5度は上昇したに違いないです。
ちび頼はお庭のステージでお歌を披露しました。
「なんて歌だ…!!」
「我ながらひどすぎるぞ…」
「ああ…なんとも斬新な歌声なのでしょう…」
「頭が割れそう〜〜」
なぜか神子がいる…。
ちび頼がステージを降りると、得と聞けとばかりステージに上がる大人頼久。大熱唱。
「すごいです〜」
「惚れ惚れするね」
「 ♪ さぁ 空に散らばるーー 心のかけらーーー 風になれば 花吹雪〜♪
そしーてーー 貴方の為に捨てられるなら 誇りとなる我が命 我がすべて〜〜♪」
「点火!」
もう大人頼久の歌は飽きたのか、ロケット花火で遊びだすちび頼。
「歌詞が寒くて聴いてられないです」
「たーーまや〜〜〜」
「頼久ーー!!!聞けーーーい!!」
夕食。
いつのまに鷹通まで…?
ちゃっかり馳走になっているし。
頼兄は昼間仕事に出ていて、ちび頼も塾に行っていたので(さすがに二日連続休ませるわけにはいかず)
食事を用意するのが遅れてしまい、
友雅少将様と大人頼久は『お腹が空いた』と言って帰って行ってしまいました。