chapter1: 近衛少将様が来た! -前篇-




遙かなる時空を超えて、また新たに、この新しい土地に飛ばされてきた一家がおりました。




マメな男、橘友雅31歳。
新しいご近所さんが来たというのでさっそく挨拶にやってきました。

 「私は橘友雅という。左近衛府少将をしているよ」
 「少将様じきじきにお越しいただくとは…!本来ならばこちらから伺うべきところを、ご足労いただきまして申し訳ございません」
 「そんなに畏まらないでくれ。…君は…私の知っているある男によく似ているのだが、名前はなんと言うのかな」
 「申し送れました。わたくし、源実久と申します。武士団に属し左大臣さまにお仕えしております。」
 「『実久』?頼久ではないのか…」
 「頼久は私の弟でございます。今は使いに出ておりましておりませぬが、じきに帰ってくるかと存じます」



さっそく新人を困らせる友雅殿。

 「少将様……少しお戯れがすぎまする…」

実久氏は超堅物人間なので、冗談が通じません。

 「ははは、実にからかいがいがある男だね、君も」








 「今度引っ越し祝いに宴でも開こうか」

間に合わせの家具たちが、二人にとても違和感を感じさせてます。
この屋敷は以前、一人暮らしの陰陽師安倍泰明氏が使っていたものでした。
現在泰明氏は法親王であらせられる永泉様のお屋敷(仁和寺)にお住まいなので
この屋敷が開いたというわけです。










 「お気持ちだけで十分でございます。どうかお気遣いなきよう…」

源兄は、宴や賑やかなのが苦手らしいです。











頼ちゃんが帰ってきました。



 「鵺の奴…明日こそ絶対倒してやる!覚えてろ〜」











 「ただいま帰りました〜」






帰宅後すぐに、熱燗で一杯と洒落込む頼ちゃん。
もう大人の仲間入りの気分でいるらしい。
背伸びをしてます。徳利の中身はジュースです。

 「くぅ〜〜ッ!この一杯が上手いのだ」












 「君が『頼久』か。ふふ、またずいぶんと可愛らしい頼久だね」
 「?あの…、それは…他にも頼久がいるようなおっしゃり方でございますね。
 ……それに『可愛らしい』などと…。武士に似つかわしくない言葉でございます。」

 「頼久、少将様に口が過ぎるぞ、慎め。」

兄上はなにやら調べ物の真っ最中。

 「…ふむ。この世界の厠は洗浄機能が付いているのか…。衛生的だな」



















 「私の知っている『頼久』は、踏み台は使わないねぇ」
 「…………どうせ私は背丈が小さいです」
 「もっと鍛錬に励みなさい。そうしたら自然に大きくなるよ。」
 「兄上よりもですか?」
 「ああ。それはそれは大きく。」

そしてやがては平安時代にあるまじき背丈に。



 「少将様、湯が用意できました。どうぞお使い下さい」

 「ああ、ありがとう」











 「おやおや。頼久もいっしょに入るかい?」
 「いえ私は…」
 「ふふ、頼久はどれくらい大きくなったのかな」
 「わ!!どこを触っておられるのですかっ」



 「もう、失礼致します…っ」
 「ふふふ…」

















 「橘少将様…。からかうようなことをおっしゃられても、全く不快に感じさせず、
お側にいると楽しくて心地よいと思ってしまう…不思議なお方だ…。」