chapter1: 近衛少将様が来た! -後篇-




 「兄上ーー!兄上ーー!来てくだされ、兄上ーー!」



 「静かにしないか頼久。今何刻だと思っている。」
 「少将様がーー!」












 「頼久、何をしたのだ」
 「私は何もしておりませぬ!少将様はお休みになりたかったようで…」
 「…そういえば、まだ寝床を用意していなかったな」

 「少将様の寝姿、なんだか『しぇー』に似ておりますね」
 「なんだそれは?またどこぞで変な言葉を覚えてきたのだな」











 「やはりポテチは『うす塩』だな!」

少将様はもうどうにもならないので、放置でうす塩ポテチを頬張る頼ちゃん。



 「頼久、菓子くずをちゃんと捨てろ。それから厠の水は流せ。」

 「………ハイ…」



頼ちゃんは決してトイレの水を流さないのです。手も洗いません。
綺麗好きな兄上にいつも叱られてます。











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 「頼久、今日の塾はどうであった」
 「はい。沢山のことを学べました。この世界は不思議なことばかりです。」
 「そうか。武術も大事だが、学問も怠るでないぞ。」



頼ちゃんは食べ終わるとさっさとどこかへ行ってしまいました。

 「…まったく。いつになったら後始末が身に付くのだ…」



 「頼久ーー、厠の水は流せよーー」

 「わかっておりますーー」

手を洗うことは覚えたようですが、やはり水は流しません。
















 夕食後は団欒の時間です。





 「兄上。少将様には決まった恋人がいるそうなのです」
 「なにを言うかと思えば……。あれほどの容姿と器量を持ったお方だ。
 京中の姫君が放っておくはずはあるまい。恋人がおられないという方がむしろ不自然だろう」
 「……そう…ですよね…」
 「どうした、暗い顔をして。」
 「いえ……、何でもございません……」















 「橘少将…友雅さま………か…。また訪ねて下さらないかな…」

格子の隙間からぼんやりと眺める月に、少将様の姿を重ねる頼久でした。