chapter12: 永泉様の引越し -後篇-
ようやく永泉様がお見えになりました。
永泉様は一人暮らしの陰陽師、安倍泰明と一緒にお住まいになっておられます。
平安家族の泰明とは別の泰明です。まどろっこしいです。
同じ屋敷に住んでいる二人なのに、永泉様は南、やっさんは北からという、
正反対な方向から来られました。
喧嘩でもしたのでしょうか。
「これは泰明殿…!よくぞ参られた」
「しばらくぶりだな、頼久。変わりないか?」
「永泉様、ようこそお越しくださいませした。」
「一晩でこんなに雪が降ったのですね」
「はい。こちらでは西洋の文化も盛んでして、『クリスマス』という風習があるらしいのです。それにちなみ『クリスマスツリー』なるものも飾っております」
「頼久もすっかりこの世界に馴染んだようですね。わたくしはこちらに着たばかりで…不安ばかりです…」
「お気持ち、お察しいたします。我々も精一杯永泉様のお力になりますゆえ。」
「あなたにそう言っていただけると心強いですね」
「永泉様、これを…」
頼久さんが育てているお花を、永泉様にプレゼントしました。
「まぁ…、私に…?」
「少しでも貴方様のお慰めになりましたら本望でございます。」
「すみません、友雅殿。待ちきれずに先に来てしまいました」
「それは構いませんが、道中ご無事でなによりでした」
「ええ。泰明殿がいてくださったので」
「あの…鷹通殿…?先ほどから何をなさっているのですか?」
「特訓です、永泉様。仕事のために必要なのです」
「…それは…裸でやらねばならないことなのでしょうか」
「己を鍛えるためです」
「頼久のようなことを言うのですね」
鷹通氏は雪が降ると褌一丁になりたくなる習性のようです。
永泉様をこの屋敷に住むように誘ったら
「貴方を愛していません。将来貴方と一緒になる可能性はあるかもしれませんが、貴方には繊細さにかけます」
と返してきました。
愛してくださらなくともよいのに…。
断られたというのに、何故か頼久は拍手しています。
実はあんまり来て欲しくないのかな。
永泉様は何度目かの説得で、ようやくこちらに移ることを承諾してくださいました。
「こちらに御住みいただければ、いつでも永泉様のお力になれ、我々も安心できます。」
「頼久は心配性ですね。私は大丈夫ですのに…」
「頼久、これからもわたくしを守ってくださいね」
「はい、命に代えましても」
こうして永泉様は土御門邸に身をを移され、平安家族の一員になりました。