chapter3: 引越しの宴 -前篇-
家族のデータが壊れたようなので、新世界に来たばかりなのに引越しを余儀なくされた源氏武士団。
教養を身に付けさせるために、(神が)置いてあげた源氏物語を読む頼ちゃん。
パソコンのクローンなので、大人が使うと職探しが出来てしまう謎な巻物です。
「いとをかし………おかし…お菓子……うす塩ぽてち…」
取り付かれたように水桶ばかり観察する頼兄。
『鑑賞する』か『本を読む』ことしか趣味がない堅物です。
「うむ。我ながら完璧だ。眩いほどの白さ…よく落ちている…!」
真っ白に洗い上げたときの達成感に快感を覚え、喜びをかみ締める兄上。
潔癖症ときてます。
右へ少し移動。隈なくチェックに余念が無い。
「何っ!!!????…こちらの方はよく見ると染みが…っ!!??」
ばりばり
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引っ越したことを伝えるために、少将様に電話してみました。
陰陽師から借り受けた、遠くの人とも会話できる道具です。
「友雅様、お会いしたいのですが……」
少将様からの返答は「今シチューを作っているので行けない」だそうです。
「そ、そうですか…。お忙しいところを申し訳ございませんでした…。」
踊る源兄弟。
踊り疲れた頼ちゃんは先におねむです。
「立派な武士になるのだぞ………。……私の可愛い…頼久…」
眠っている頼ちゃんのおでこにちゅぅをする兄上。
密かに弟を溺愛している感があります。
夢にまで頼ちゃんを…。
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先日断られたので、今回また改めて少将様に電話してみました。
「少将様…本日はご都合いかがですか?」
少将様は「カウンセラーに行ってはいけないと言われているので」だそうです。
「さ、左様でございますか……。」
また翌日も電話。
「え?本当ですか?今日はよろしいのですか?」
5度目の正直。少将様はやっとお暇ができたようです。
「誘われないと思っていたよ。すぐに行こう。」
だそうです。
あんなに誘っても断ったのはそちらだろうに…。
しかも
「いま宴の最中なのだが、そちらで宴を開いてもいいかい?」
ときた。
「は、はい。かまいませんが、うちには少将様にお喜びいただけるような品はご用意できないかと……」
友雅のうちで宴を開いていた面々が続々やってきました。
「初めてお目にかかりますね。永泉と申します。」
「私は源頼久と申します。武士でございます」
「ふふっ。これは可愛らしい武士殿ですね」
その中にはあの人も…。
「頼久と申します。あなたも武士のようにお見受けいたしますが」
「……………」
「あ、あの……?」
「お前は……『頼久』というのか……?」
「は、はい。」
「ここには一人で住んでいる……のか…?」
「いえ。兄と――」
「兄……?兄上がおられるのか?!」
「わっ!!」
突然大きな声をだした青年に驚く頼ちゃん。
彼は屋敷の中に駆け込んで行きました。
「あれ…?少将様は先ほど中に入られたのでは…」
「いや?私は今着いたばかりだよ」
「??」
皆を迎え入れて屋敷の中に戻ると、先ほどの青年の姿がありました。
「あ、あ、あ、兄上…ッ!!!!」
「…?いや、私はそなたの兄ではないが…」
「兄上、兄上ーー!!お遭いしとうございました…!!」
「……私のほうがそなたより歳若く思うのだが…。そなたの兄とやらと似ているのか?」
「頼久です兄上!!語れば長くなるのですが―――」